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大阪地方裁判所 平成2年(ヨ)973号・平2年(ヨ)1383号

当事者の表示

別紙1記載のとおり

主文

一  申請人が被申請人の従業員としての地位を有することを仮に定める。

二  被申請人は、申請人に対し、金一九万七八〇五円及び平成二年七月から第一審の本案判決言渡しに至るまで毎月二八日限り金二〇万九四五〇円を仮に支払え。

三  申請人のその余の申請を却下する。

四  申請費用は、これを三分し、その二を被申請人の負担とし、その余を申請人の負担とする。

理由

(当事者の求めた裁判及び当事者の主張)

別紙2記載のとおり

(当裁判所の判断)

一1  申請の理由1、2の事実、被申請人の主張1のうち被申請人が申請人に対し本件配転の意思表示をしたこと(懲戒処分である旨が告知されたとの点を除く。)、同2の事実、申請人の主張2のうち後段の事実(脱退の理由及び組合加入の点を除く。)は当事者間に争いがない。

2  右争いがない事実、疎明資料及び審尋の全趣旨によると、次の事実が一応認められる。

(一) 被申請人は、肩書地に本店を置き、自動車による旅客等の運送事業等を営む株式会社であり、申請人は、昭和六一年一月に被申請人にタクシー運転者として雇用されたものである。被申請人会社には、従業員により組織された単一組合の金剛自動車労働組合(以下(八)まで「組合」とあるのは特に断りのない限りこの組合のことである。)があり、私鉄総連に所属している。

(二) 被申請人会社においては、タクシー運転者が公休に勤務する公休出勤(特勤)の制度が設けられている。公休出勤の場合、水揚げの六〇パーセントがタクシー運転者の収入となる。公休出勤は、もともと組合が被申請人に申し入れて制度化させたものであって、被申請人が、一部の者に公休出勤が偏らないためと、過労防止のため一か月に一人二回以内とするとの原則を示しているほかは、タクシー関係従業員の自主的運営に任されており、被申請人の職制は現実の運営には関与していない。そして、公休出勤が二回目の者と一回目の者の希望日が重なったときは一回目の者を優先し、また、公休者と非番者では公休者を優先するよう運営されている。実際の手続としては、毎月一七日にタクシー運転者の点呼場所にその月の二一日から翌月二〇日までの特勤申込表を張り出し、個々のタクシー運転者が自らその表の希望日の申込者名欄に署名又は押印することになっており、その欄が不足したときは欄外に署名又は押印する扱いになっている。そして、その希望者の中から前記運営方針に基づき、無線係がこれを平等に割り振っている。

(三) 申請人は、平成元年八月及び九月には特勤申込表に署名又は押印をしなかったため、公休出勤を割り当てられなかったが、同年一〇月には希望したので割り当てられ、公休出勤した。申請人は、同年一一月一〇日昼過ぎ、外から電話で被申請人会社(昭和町事務所)の無線室にいる坂本助役(運行管理者)に「次の公休日に出勤できるか。」と尋ねたところ、同人から「できない。」との返事を受けた。そこで、申請人は、その約一〇分後、乗車中の三一六号車の無線により無線室の坂本助役に対し、断続的に次のような交信をした。

申請人「坂本さん、先の件やけどな、わし納得でけへんのや。わしには特勤させんようにしとんのと違うか。」

坂本「三一六号、そんなことはありません。」

申請人「わしなー八月も九月も特勤してないんやで。そんなやり方あんのか。」

坂本「三一六号、あんたは八月と九月は判こを押してなかったで。」

申請人「わしが表を見たときは、もう押すとこなかったやないか。坂本さん、そやろが。そんなもん押すとこないさかい押さへんのや。押してなかったら声もかけへんとはどういうこっちゃ。そやろが。」

坂本「三一六号、その件は有線にするか、事務所へ来て下さい。」

申請人「わしも特勤するんやで。そのやり方はなんや。わし押そうにも押されへんやないか。」

坂本「三一六号、そんなことは有線にするか、事務所へ来て下さい。」

申請人「そうか。そんなら晩に行ったるわ。」

右交信の間、無線室では、客からタクシー配車を依頼する旨の電話を受けたが、坂本助役は、申請人の右無線通話のためこれを聞き取れず、客の電話に対して三回聞き直したものの聞き取れず、客から叱責された。坂本助役は、ようやく聞き取り、無線室で勤務中の堂上無線係に配車指示して無線送信させたが、申請人の通話に妨げられて配車することができず、再度その客に苦情を言われた。その他にもその間に二本のタクシーの依頼電話があり、堂上無線係が応対したが、これも申請人の通話が妨げとなって配車することができなかった。その間延べ約四分間であった。客を輸送中の他のタクシー運転者の中には、乗車中の客から申請人の右通話に関して「金剛のタクシーは何という会社や。こんなこと会社は何も言わへんのか。あきれてしまう。」などと苦情を言われた者もあった。

阪口常務は、当日の夜、事務所に現れた申請人に対し、そのようなことは無線ではなく、有線でするか、事務所で話すように言ったところ、申請人は、わざと皆(移動局)に聞こえるように無線で送信した旨を述べた。当日、被申請人会社の多数のタクシー運転者から申請人の行為を許すなとの苦情がタクシー係長に寄せられた。

(四) 阪口常務は、申請人に対し、平成元年一一月一二日、右通話の件について「今後は気をつけるように。」と取りあえず注意し、更に同月一四日、「関係者全員にてん末書を提出させるから、君も出すように。」と指示した。阪口常務は、同月一六日、組合の三役会議の席上、組合に対し、申請人の右通話の件を報告した。なお、組合の要請により、申請人についてはてん末書に代えて報告書を出すことに変更された。しかし、申請人は、てん末書の提出期限と定められていた同月二三日までにてん末書又はそれに代わる報告書を提出しなかったので、被申請人は、懲戒委員会にもはかり、その結果、最終的に申請人からその提出がなければ、懲戒処分として本件配転をし、提出があれば、それに基き、再度懲戒の審議をするとの結論に達した。そこで、馬場係長は、同月二四日、申請人に対し、右書面の提出を求めたところ、これを拒否されたので、本件配転の辞令書を交付した。その際、両名の間で、次のようなやりとりがあった。

馬場「あなたは江川よりてん末書の提出期限は昨日であることを聞いているはずだが、今日でも受け取りますが、提出しませんか。」

申請人「出したらどうなる。」

馬場「あんたのてん末書に基づき、会社は懲戒の審議をする。」

申請人「出すつもりはありません。」

馬場「それでは、仕方がないので処分の辞令を渡します。」

申請人「そんなもんわしは受け取らん。てん末書を出そうと出さまいと今辞令が出るということは、既に処分は決まっておったことになるやないか。」

馬場「てん末書を出さなかったらこうすると決まっておったが、出せばあんたの言い分も聞き、会社は再度審議するということや。出すなら今からでも受け取るが、どうですか。」

申請人「出しません。会社が処分するのは勝手やわな。わしは受け取らん。」

申請人は、右辞令書を一旦受け取り、読み終えてから、馬場係長に返還した。

(五) 申請人は、平成元年一一月一二日以降組合の役員らに前記の無線私用の件に関する対処の仕方などを相談したが、同月三〇日組合から協力することはできない旨の通告を受けたため、同年一二月からは全国自動車交通労働組合大阪地方連合会(自交総連大阪地連)の楠本法対部長に相談するようになった。しかし、一方では、申請人は、組合にもう一度善処を求めようと思い、平成二年一月一三日、組合にその旨を申し入れたが、組合は、同月二九日、事態を静観する旨の回答をなした。申請人は、平成元年一二月下旬ころから、組合は頼りにならないので脱退して自交総連の組合に加入しようと次第に思うようになり、楠本に数回相談した。申請人は、平成二年一月二六日から三月末まで病気で入院していたので、退院後の同年四月一七日、組合に対し、もう一度被申請人と話をするよう申し入れたが、これを拒否されたため、組合を脱退することを決意した。そして、申請人は、同月二一日付けで組合に脱退届けを提出して組合を脱退した上、楠本法対部長に自交総連大阪地連の組合に加入したい旨を伝え、その後、加入形態等に関する相談を経て、同年五月二八日付けで自交総連大阪地連東地協に属する大阪自動車交通労働組合(大自交労働組合)に加入した。この加入の事実は、同月二九日付け書面で被申請人に同月三〇日通知された。

(六) 被申請人会社では、電波監理法規に従い、無線タクシーの無線については業務以外の用に供してはならず、かつ、短時間に用件を伝えるよう従業員に指示、指導しており、タクシー運転者の間でもそのことは当然のこととして理解されている。しかし、申請人は、入社直後から、遠距離等の割の良い仕事が他の運転者に回ると、「もうちょっと考えて配車せい。おれが無線しとるのに返事くらいせいよ。差別するな。」などと無線で無線係に配車の文句を言うことがたびたびあり、逆に近距離等の割の良くない仕事の場合、近くにいても無線で返事をしないということが多かった。

他のタクシー運転者の中でも、無線室からの配車の取り合いになったとき、配車されなかった運転者が無線室に無線で苦情を言うことがたまにあるが、その内容は「わしの方が近いのに。」という程度の短いものである。

(七) 被申請人と組合との労働協約では、別紙3(略)記載のとおりユニオンショップ制を採用しており、非組合員は、同別紙記載のとおりである。タクシー部門では、タクシー運転者、運行管理者(助役)及び無線係が組合に加入している。

(八) 被申請人会社では就業規則としてタクシー運転者の勤務条件が他の職種と異なるところが多いので、タクシー運転者に適用されるタクシー運転者就業規則とタクシー運転者以外の従業員に適用される就業規則を別に定めている。前者の就業規則では別紙3記載(抜粋)のとおり定められている。一般にタクシー、バス運送事業の場合、自動車運転者が操車係など他の業務に従事する者よりも上位に位置付けられており、被申請人会社でも同様である。

二  そこで、以上の事実に基づいて当事者双方の主張を順次検討する。

1  本件解雇の効力について

ユニオンショップ協定を締結した労働組合の組合員が同協定に基づく解雇がなされる前に組合を脱退した上、相当期間内に他の組合に加入した場合、特段の事情のない限り、その協定の効力は当該脱退者には及ばず、同人に対する解雇は無効であると解するのが相当である。このことは、企業内に併存する一方の組合を脱退して他の組合に加入した場合や複数の組合員が組合を脱退して自主的な企業内新組合を結成した場合に限られず、一人の組合員が組合を脱退して企業外の既存組合に加入した場合においても変わりはないというべきである。

申請人は、本件配転に関して金剛自動車労働組合に支援を求めたところ、これが得られなかったので、自交総連大阪地連の法対部長と本件配転やその組合への加入に関する相談等をし、なお並行して金剛自動車労働組合にも支援を求めたが、最終的にこれを拒否されたため、同組合を脱退し、一か月ほど後には大自交労働組合に加入したものである。したがって、被申請人主張のような目的で駆け込み加入したものとは認められないし、また、後記のとおり本件配転が懲戒処分として有効であるとしても、右脱退の動機、理由が前記ユニオンショップ協定の趣旨に反する不当なものであるとまではいえず、結局、本件において特段の事情は認められない。

したがって、被申請人と金剛自動車労働組合との間のユニオンショップ協定の効力は申請人には及ばず、本件解雇は無効であるといわなければならない。

2  本件配転の効力について

懲戒処分としての効力について検討する。

(一) 懲戒事由

申請人は、平成元年一一月一〇日、前記のとおり無線の業務外使用が禁じられており、坂本助役からも中止するよう指示されたのに、無線を業務外の目的で使用し、その結果、被申請人会社の配車業務を妨げ、かつ、無線を傍受した客らから被申請人会社に対する批判を受けるなどの事態を招いたのであり、その上、申請人は、その件で提出を求められたてん末書又は報告書を期限内に提出しなかったもので、これらは、被申請人のタクシー運転者就業規則第六六条の(8)、(11)及び(37)に該当するといわなければならない。

(二) 本件配転が就業規則に根拠を有するかどうかの点

本件配転は、被申請人のタクシー運転者就業規則第六五条の(5)の降職に該当すると解される。すなわち、第一に、被申請人会社においては自動車運転者が操車係など他の業務に従事する者よりも上位に位置付けられていること、第二に、懲戒処分の場合でなく、通常の業務命令の場合でも、タクシー運転者就業規則第一五条の規定の趣旨からみて、タクシー運転者を他の職種に変更することが可能であり(仮にタクシー運転者をそれ以外の職種に変更することができないとすれば、同条に規定された「職種変更」は意味をなさない。)、その際、常に当該タクシー運転者の同意が必要であると解することもできないこと、そして、タクシー運転者の中で申請人のみこの規定が適用されないとする根拠はないこと、第三に、タクシー運転者について就業規則が別に存すること自体から、タクシー運転者をタクシー運転業務以外の職種に変更できないと解することは無理であること、第四に、疎明資料によると、被申請人会社では、以前、接客態度不良のタクシー運転者を懲戒処分として営業手(現在の操車係)に降職したこと、また、交通事故と乗客の苦情が多いバス運転者に懲戒処分として乗合バスの車掌を命じ、その後別の事由による懲戒処分として同人に五日間の下車勤(営業手の操車係)を命じたことが一応認められることなどに照らすと、タクシー運転者就業規則第六五条の(5)の「下位等級」にはバス操車係も含まれると解するのが相当である。

したがって、本件配転は、タクシー運転者就業規則に根拠を有する懲戒処分であるといわなければならない。

(三) 懲戒処分としての告知について

疎明資料によると、本件配転の辞令書には懲戒処分である旨が明示されていないことが認められる。しかし、前記一2(四)のとおり、馬場係長が申請人に辞令書を交付した際の状況に照らすと、本件配転が懲戒処分である旨が口頭で告げられたものと評価し得るものであって、そうすると、本件配転が告知手続の瑕疵により懲戒処分として無効とすることはできない。

(四) 不当労働行為について

申請人は、被申請人が申請人に対し不利益的取扱いをしたとして種々主張しているが、そのことを疎明するに足りる資料はなく、不当労働行為の主張は理由がない。

前記のとおり、申請人は、平成元年八月及び九月については公休出勤の申請手続を履践しなかったのであるから、被申請人が申請人に公休出勤をさせなかったとしても、不利益な取扱いをしたとはいえない。また、疎明資料及び審尋の全趣旨によると、申請人が金剛自動車労働組合の組合大会で積極的に発言したり、行動したりしたようなことは余りなく、昭和六三年の組合大会で組合役員を批判したのも組合員の辻井であり、同人の発言を契機として組合員のほとんどの者がそれに同調したというのが実情であること、申請人が団交要員(交渉委員)に選任され、団交に出席して「会社側団交要員には翌日代休が与えられるのに、組合側要員には与えられないのはおかしい。」と発言したことがあったが、その時期は、申請人が公休出勤を与えられなくなったと主張する平成元年八、九月よりも一年数か月も前の昭和六三年四月の春闘のときであることが一応認められ、これらの事実に照らしても、申請人の主張は採用することができない。

(五) 懲戒権の濫用について

申請人は、被申請人会社においては無線の業務外使用が常態であるかの如く主張しているが、実情は前記一2(六)の後段のとおりであって、申請人の主張を疎明するに足りる資料はない。また、申請人の無線私用は極めて短時間で一回限りであったとも主張しているが、平成元年一一月一〇日の前記業務外使用は延べ約四分間にわたるものであって、これが極めて短時間であったとはいえないし、それ以前にも申請人は無線を業務外に使用していたのであるから、そのとき一回限りというわけでもない。申請人は、同日の無線私用については、運行管理者の指示に従わず、被申請人の業務を妨害したものであり、その通話の内容、時間、その業務に与えた影響などを考慮し、また、従前の無線私用の状況、てん末書ないし報告書の不提出の点などを併せ考えると、本件配転は懲戒処分として相当であり、懲戒権の濫用であるとはいえない。

申請人は、他の事例との不均衡を問題にしているところ、疎明資料によると、被申請人会社のバス運転者が他のバス会社の従業員と喧嘩をしたことがあること、しかし、この件は、被申請人会社の当該バス運転者には非がなかったので、懲戒処分の対象とならなかったこと、人身事故を起こした被申請人会社の従業員が懲戒処分を受けなかったことがあるが、これは、被申請人会社側の事情で事故査問委員会を開催するのが遅れたことから、組合側の抗議により昭和六三年六月二一日から平成元年九月二一日までの間に発生した事故については不問に付することとなったためであること、現に申請人もこの間物損事故を起こしたが、不問にされたこと、被申請人会社の従業員が自分の息子に会社のバスで練習運転をさせ、これを非難した従業員に「お前に文句を言われる筋合いはない。」などと言ったことがあるが、当該従業員の息子は無免許ではなく大型一種免許を持っており、また、被申請人代表者の許可を得て行ったものであること、当該従業員は、事後直ちにてん末書を提出したこと、以上のことが一応認められる。

したがって、これらの事例と比較しても、本件配転が懲戒権の濫用であるとすることはできない。

(六) まとめ

以上のとおり、申請人の主張はいずれも理由がなく、本件配転は、懲戒処分として有効である。

3  申請人の地位等

右1及び2によれば、申請人は、バス操車係として被申請人の従業員の地位にあるものといえる。

そして、申請人に支払われた平成二年三月、四月、五月及び六月の賃金(いずれもバス操車係としてのもの)はそれぞれ六万三八五五円、二一万三五四三円、二〇万五三五七円、一万一六四五円であることは当事者間に争いがなく、そうすると、同年四月及び五月の二か月の平均賃金額(審尋の全趣旨によると、同年三月については九日間だけの勤務であること、六月については本件解雇までの分が支給されたことが一応認められ、いずれも平均額を算出するには適しないので、同年四月及び五月の二か月の平均額とする。)は二〇万九四五〇円となる。

したがって、右六月分の差額は一九万七八〇五円である。

4  保全の必要性

疎明資料によると、申請人は、妻と二人住まいで、被申請人からの賃金(毎月二八日に支給)により生計を維持してきたが、本件解雇により従業員として取り扱われず、その収入を絶たれて生活に困窮していることが一応認められ、本件解雇以降第一審の本案判決言渡しに至るまで(それ以後については必要性を疎明するに足りない。)右平均額の賃金の支払を受けるべき必要性があるということができる。

なお、疎明資料によると、被申請人の妻がお好み焼き屋を経営しているが、それは本件配転以前からのことであって、経営状態は芳しくなく、生計維持にほとんど寄与していないこと、また、申請人の妻は平成元年にスポーツタイプの新車を購入しているが、その時期は本件配転よりも前であり、しかも、それについては平成四年一月まで毎月六万八〇〇〇円の支払が残っていることが一応認められるのであり、前記賃金額からみて、右店舗経営や自動車購入の事実は、いずれも保全の必要性を減殺するものではない。

三  以上の次第で、申請人の本件申請は、申請人が被申請人の従業員としての地位を有することを仮に定め、かつ、被申請人に対し、平成二年六月分賃金差額一九万七八〇五円及び同年七月から第一審の本案判決言渡しに至るまで毎月二八日限り二〇万九四五〇円の賃金の仮払を求める限度で理由があるから保証を立てさせないでこれを認容し、その余は理由がなく、かつ、疎明に代えて保証を立たせることも相当でないから却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 小佐田潔)

<別紙1> 当事者目録

申請人 林孝一

右申請人代理人弁護士 松尾直嗣

同 斉藤真行

同 山本勝敏

被申請人 金剛自動車株式会社

右代表者代表取締役 白江一博

右被申請人代理人弁護士 西坂清孝

<別紙2> 当事者の求めた裁判及び当事者の主張

第一 当事者の求めた裁判

一 申請の趣旨

1 申請人が被申請人のタクシー運転者としての従業員の地位を有することを仮に定める。

2 被申請人は、申請人に対し、金五三万二六二二円及び平成二年七月から毎月二八日限り金三四万三九八八円を仮に支払え。

3 申請費用は被申請人の負担とする。

二 申請の趣旨に対する答弁

1 申請人の申請を却下する。

2 申請費用は申請人の負担とする。

第二 当事者の主張

一 申請の理由

1 被申請人は、肩書地に本店を置き、自動車による旅客等の運送事業等を営む株式会社であり、申請人は、昭和六一年一月、被申請人にタクシー運転者として雇用されたものである。

2 被申請人は、申請人をタクシー運転者からバス操車係に配置転換した上、解雇したと主張して、申請人が被申請人のタクシー運転者として従業員の地位にあることを争っている。

3 申請人は、配転以前はタクシー運転者として被申請人から毎月二八日に平均三四万三九八八円(平成元年九月から同年一一月までの平均)の賃金を支給されていた。したがって、平成二年三月二八日支給の三月分は九万九八六七円(同月は一二日から九日間出勤)、四月分以降は毎月三四万三九八八円支払われなければならないのに、被申請人は、バス操車係の三月分賃金として六万三八五五円、四月分として二一万三五四三円、五月分として二〇万五三五七円、六月分として一万一六四五円を支払ったにすぎない。その差額は、合計五三万二六二二円となる。

4 申請人は、妻と二人住まいで、被申請人から賃金を受け取り、一方、妻はお好み焼き屋を経営しているが、これは長年にわたって赤字経営の状態が続いており、家計に対する寄与は全くなく、申請人の家計は申請人の賃金収入が唯一の支えとなっているのが現状である。申請人の月々の支出は、

<省略>

合計約二〇万五七一七円を下回らない。申請人が配転後のバス操車係として被申請人から受ける賃金は名目約二〇万円で、手取り約一五万円に満たず、到底申請人の家計を維持することは困難である。そして、その後の解雇の結果、申請人の賃金収入が途絶え、その生活は危機に瀕している。

したがって、申請人が被申請人のタクシー運転者として従業員の地位を有することを仮に定めるとともに、被申請人から申請人に対し解雇前の差額分も含めタクシー運転者としての賃金の仮払がなされる必要がある。

5 よって、申請人は、申請の趣旨記載のとおりの裁判を求める。

二 申請の理由に対する被申請人の認否及び主張

(認否)

1 申請の理由1、2の事実は認める。

2 同3のうち、被申請人が、申請人に対し、バス操車係の平成二年三月分賃金として六万三八五五円、四月分として二一万三五四三円、五月分として二〇万五三五七円、六月分として一万一六四五円を支払ったことは認めるが、その余は争う。

3 同4の事実は否認し、その主張は争う。

(主張)

1 配置転換について

(一) 被申請人は、平成元年一一月二四日付けで、申請人に対し、タクシー運転者就業規則(本件に関係する部分については別紙3(略)記載のとおり。以下同様。)第六五条の(5)の降職(懲戒処分)としてタクシー運転者の地位を解き、バス操車係とする旨の意思表示(以下「本件配転」という。)をした。

なお、懲戒処分である旨は、申請人に辞令を交付する際、馬場総務係長において口頭で告知した。

タクシー運転者は、運行管理者、無線係、バス運転者、操車係などとともに被申請人の運輸課に属する。被申請人の社内の職階的扱いでは、操車係はバス運転者やタクシー運転者より下位に属し、後者から前者に移動させることを業界では「下車勤」を命ずると称して降職扱いにしている。タクシー運転者が他の者と異なり、「タクシー運転者就業規則」の適用を受けるのは、勤務の特殊性に由来するものであって、勤務時間や賃金体系以外の共通性を有する条項は一般の就業規則と大同小異である。本件配転は、このようなタクシー運転者就業規則に根拠を有する懲戒処分である。

本件配転の懲戒事由(右就業規則第一二条の(4)、(5)、(11)及び(14)に違反し、第六六条の(8)、(11)及び(37)に該当する。)は次のとおりである。

(1) タクシー無線は業務外に使用してはならないのに、申請人は、従来からたびたび無線を私用に使い、同僚運転者から乗客を横取りしたり、同僚運転者に対して嫌がらせ行為などをした。

(2) 申請人は、平成元年一一月一〇日、無線を約二分間にわたり私用に使った。その間、客からの乗車申込みの電話が三本あったが、いずれもその業務無線中に申請人の無線通話が割り込んだため、配車できなかった。そのため、業務応答していた運転者から仕事ができなくなったと苦情が相次ぎ、申請人の通話を傍受していたタクシーの乗客の中には、「あなたの会社ではこのような無線通話をしているのか。おかしいじゃないか。乗っている方も不愉快である。」旨の発言をする者もあった。また、申請人の右通話があった直後、被申請人は、電気通信監理局より、被申請人の無線出力を五ワットから三ワットに変更され、アンテナも狭指向性のものに変更させられ、その位置を下げられた。

(3) 申請人は、右(2)の件につき被申請人からてん末書(又はこれに代わる報告書)の提出を命じられたが、これを拒否し、自らの行為を正当化し、他に責任を転嫁しようとした。

(4) 他の多数の従業員が被申請人に対して申請人の本件配転を強く要望した。

そこで、不特定多数の乗客の生命を預かり、道路交通の安全を確保しながら旅客運送業務に従事している被申請人としては、<1>申請人のタクシー運転者としての適格性の欠如と、<2>タクシー運行業務の秩序維持の点から必要不可欠な処置として本件配転を行った。本件配転は、被申請人の業務の特殊性からみて不相当とはいえないし、その処分理由に照らせば、前記就業規則第六五条の(1)ないし(4)の処分は不相当であり、本件配転が最も妥当な措置である。

(二) 仮に懲戒処分と認められないとしても、本件配転は、タクシー運転者就業規則第一五条に基づく職種変更又は配置転換であって、有効である。

前記のとおり、本件配転は、高度の必要性に基づいてなされたものであり、しかも、平成元年一一月初めにはバス操車係一名が退職し、欠員が生じていたので、臨時にガードマンを操車係として雇用していた状態であって、被申請人としては操車係一名を必要としていた。

2 解雇について

申請人は平成二年四月二一日をもって金剛自動車労働組合を脱退したので、被申請人は、平成二年六月三日付けで、申請人に対し、同組合との間で締結された労働協約(本件に関係する部分については別紙3記載のとおり。以下同様。)第二条の3に基づき、申請人を解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。

三 被申請人の主張に対する申請人の認否及び主張

(認否)

1 被申請人の主張1のうち、被申請人が申請人に対し本件配転の意思表示をしたこと(懲戒処分である旨が告知されたとの点は除く。)は認めるが、その余は争う。

2 同2の事実は認める。

(主張)

1 本件配転は、次の理由により無効である。

(一) 本件配転が懲戒処分であるとした場合

(1) 就業規則上の根拠の欠如

被申請人のタクシー運転者就業規則には懲戒処分としての業務の変更や配置転換の措置は存在しない。本件配転は、明らかに異職種への配置転換であり、右就業規則第六五条にいう降職ではない。すなわち、被申請人の従業員は、タクシー運転者のほかはバス乗務員、操車係三名、ガードマン一名、営業係五名とそれ以外は助役以上の管理職であり、そのうちタクシー運転者及びバス乗務員はいわば専門職として前者から後者への転換はあるものの(その場合でも必ず本人の同意を得ている。)、その他の業務との交流はこれまで全くなかった。タクシー運転者については、「タクシー乗務員」と特定した募集がなされてそれに応じた者が採用され、「タクシー運転者就業規則」という独自の就業規則が制定され、賃金体系(一時金や退職金も含む。)や、出退勤、勤務時間等も他の業種と全く異なるのである。さらに、被申請人会社では、操車係の業務は、前記三名の操車係が行い、それをガードマン一名が手伝っているが、操車係はいわゆる中高年者が当初から操車係として採用されたものである。したがって、タクシー運転者が例えばバス運転者へ転換することはこれまでにもあったが、その場合は必ず本人の同意を得て行われている。

これらのことからも明らかなように、バスの操車係は、タクシー運転者とはその業務内容、労働条件等が全く異なる職種であり、タクシー運転者の「下位等級」ではない。

したがって、本件配転は、就業規則上の根拠を欠き、違法無効である。

(2) 告知の不存在

被申請人は、本件配転をした際、申請人に対し、懲戒処分である旨を明確に告知しなかった。したがって、本件配転の処分手続には瑕疵がある。

(3) 不当労働行為

本件配転は、労働組合の内部にあって執行部の方針に対して必ずしも同調せず、組合運営や労使関係のあり方について執行部とは異なる独自の立場をとる申請人を被申請人が嫌悪して職場から排除しようとする意図に基づいて行ったものである。

申請人は、被申請人の従業員の大半で組織されている金剛自動車労働組合の組合員であった。申請人は、入社以後、組合幹部の運営の仕方に不満を持っていたが、昭和六三年の組合定期大会の席で、組合役員が任期中に会社職制となっている事実を指摘してそれを批判する発言を行った。当時委員長と副委員長が助役に、書記長が助役待遇にそれぞれなっていた。申請人の発言があったために組合三役は退任に追い込まれる結果となった。

申請人は、平成元年の春闘の時期、組合役員以外に組合役員と被申請人とのやりとりを監視する意味でタクシー運転者の組合員の中から独自に二名の団交要員を選出する動きが出た際に、職場の同僚に請われて役員でない団交要員の一人に選任されて団交に出席した。申請人は、団交の席上、被申請人側の団交要員には団交の翌日に代休が与えられるのに組合側の団交要員には与えられないのはおかしいと発言した。この点は、組合執行部と見解を異にした。

申請人は、団交要員に選任された際、被申請人の江川部長から「わしとの約束はどうなっているのか。」と圧力をかけられた。申請人は、入社の面接の際、江川部長から「前の会社で組合活動をしていたようだが、会社ではやらんといてくれ。」と組合活動をしないことを求められていた経過があった。

被申請人会社のタクシー運転者の勤務では、公休出勤(特勤)による手当を得て賃金をできるだけ増やす(公休出勤すれば、水揚げの六〇パーセントが支給される。)というのが運転者の共通した希望であった。申請人も平成元年七月ころまでは毎月二回くらいの公休出勤をしていた。ところが、被申請人は、同年八月ころから申請人が希望しても、公休出勤をさせないようになった(公休出勤につき組合が運営しているとしても、それは会社組織の一部として行っているものである。)。この被申請人の態度の変化は、申請人の団交出席とそれに対する被申請人の嫌悪の態度表明があった時期と符合する。申請人は、他の公休出勤を与えられないタクシー運転者らの代表格となって被申請人に対して差別的な扱いを抗議している。

申請人は、平成元年の組合役員選挙の際、職場の仲間から推されて副委員長に立候補した。申請人が立候補の意思を周囲に漏らした直後に対立候補が元三役の推薦で立候補し、選挙の結果申請人は落選した。対立候補が立って役員選挙が行われることは、金剛自動車労働組合では極めてまれのことであるから、被申請人側に何らかの動きがあったものと推測される。現に、選挙の際には被申請人側からデマ宣伝が流されて申請人の当選を妨害するための圧力が加えられた。

平成元年ころから被申請人が申請人を解雇しようとしているとの噂があり、申請人は、本件配転後も配転で嫌がらせをしてやめさせようとしているとの被申請人の意図を同僚から伝え聞いた。

本件配転は、対立する立場が併存する労働組合の中の一方の立場に立つ申請人のみに対して被申請人が不利益的取扱いをして、あわよくば退職に追い込んで被申請人から排除することを目的として行った不当労働行為であり、動機及び目的において違法なものであって無効である。

(4) 懲戒権の濫用

申請人は、平成元年一一月〇日、電話で無線基地の坂本助役に「次の公休日に出勤できるか。」と聞いたところ、同人より「できない。」との返事があった。そこで、申請人は、約一〇分後に無線で再び坂本助役と数十秒程度次のような会話をした。

申請人「先程のことやが、私は先月も先々月も一度も公休出勤はないんやで。」

坂本「車がないものはしょうがない。」

申請人「ちゃんとえこひいきなしにしてや。」

坂本「そういうことは事務所に来て言ってくれ。」

申請人「それやったら晩に行くわ。」

申請人は、その後事務所に行ったところ、阪口常務取締役及び坂本助役がいたので、同趣旨の話をして公休出勤は公平にするよう改めて申し入れた。

無線の業務外使用は、被申請人会社においては日常茶飯事のことであり、申請人のみがことさら問題とされるものではない。無線の私的使用は、運転者によるものよりも無線室にいる無線係によるものの方がはるかに多かった。しかも、申請人の行為は極めて短時間でかつ一回限りのことであったことからすれば、口頭で注意すれば済むようなものである。現に、申請人は、無線私用後の同月一二日、阪口常務に謝り、「今後は気をつけるように。」と言われて一旦は落ち着いたのである。しかるに、被申請人のした本件配転は、解雇に次ぐ重い処分であって、申請人が被る不利益も極めて大きい。

なお、アンテナの変更は、右無線私用以前のことであり、申請人の通話とは全く無関係である。

また、被申請人会社においては、比較的最近の例でも、他のバス会社の従業員と喧嘩をした従業員や、人身事故を起こした従業員に対して処分が全くされなかった事例がある。さらに、被申請人の従業員が無免許の息子にバスの運転をさせた上、それを注意した別の従業員に暴言を吐いた事件でも、七日間の出勤停止に止まっている。

したがって、本件配転は、その懲戒の対象とされる行為と処分内容が明らかに均衡を失するものであり、懲戒権の濫用である。

(二) 本件配転が通常の業務命令であるとした場合

(1) 就業規則上の根拠の欠如

タクシー運転者が就業規則を異にするバス操車係に配転されるについてタクシー運転者就業規則を根拠とすることができるか重大な疑問があり、そのような配転は許されないというべきである。

(2) 申請人の同意の欠如

前記(一)(1)のとおりであるから、被申請人と申請人との労働契約は、タクシー運転者としての職種を限定したものである。したがって、タクシー運転者就業規則第一五条を根拠とするとしても、本件配転には申請人の同意を要するというべきである。

申請人は、本件配転に際して、職種の変更に応じる旨の意思表示は全く行っていないから、労働契約は変更されておらず、本件配転は無効である。

(3) 不当労働行為

前記(一)(3)のとおり

(4) 権利の濫用

本件配転当時、バス操車係の要員に欠員があったわけではなく、その必要性はもともと存在しなかった。現に、申請人が本件配転の後、疾病による一時的な休職を経て平成二年三月一二日から異議を留めてバス操車係として勤務している間、被申請人は、他の操車係に対してはローテーションを組んで仕事をさせていたにもかかわらず、申請人についてはローテーションに組み入れず、前日の勤務終了時に翌日の出勤時刻を指示するという状態であった。その後申請人の代理人弁護士が被申請人に対し、配転の理由がないことを指摘してその撤回を求めてから、慌ててローテーションに組み入れたのである。

申請人は、これまでタクシー運転者として社内でも有数の売上実績を残して会社の経営に多大の貢献をしてきたものであって、このような申請人を敢えてタクシー運転者の地位を解いて売上と直接関係のないバス操車係に配転することは、配転の人選の点でも全く根拠がない。特に、被申請人は、本件配転後、タクシー運転者を数名新たに採用している事実があり、この点からみても、申請人のような優秀なタクシー運転者をバス操車係に配転するような余裕はなかったはずである。

しかも、本件配転は、申請の理由4記載のとおり申請人の生活に多大の悪影響を及ぼすことが明らかである。

したがって、本件配転は、権利の濫用であって、無効である。

2 本件解雇は、次の理由により無効である。すなわち、憲法二八条が保障する個々の労働者の団結権及び組合選択の権利は尊重されるべきであるから、ユニオンショップ協定締結組合から脱退し、又は除名された者がその後直ちに他組合に加入するか、又は新たに自主的組合を結成した場合、当該労働者には同協定の効力は及ばないと解すべきである。

申請人は、金剛自動車労働組合と考え方を異にするようになり、平成二年四月二一日付けで脱退届けを提出して同組合を脱退し、同年五月二八日付けで全国自動車交通労働組合大阪地方連合会東地協(自交連東地協)大阪自動車交通労働組合(大自交労働組合)に加入し、その旨は同月二九日付けで被申請人に同月三〇日通知された。

四 申請人の主張に対する被申請人の認否及び反論

(認否)

1 申請人の主張1は争う。

2 同2について

前段の主張は争う。

後段のうち、申請人が金剛自動車労働組合を脱退した理由及び申請人主張の組合に加入したことは知らないが、その余の事実は認める。

(主張)

1 不当労働行為の主張に対して

(一) 被申請人は、組合内部のことに関与しないし、その内部事情についても関知しないところである。したがって、申請人が組合内部においてどのような立場を採ろうと、それは組合内部の問題であって、被申請人が申請人の組合内における立場を理由にこれを嫌悪し、職場から排除しようとすることはない。

(二) 昭和六三年一〇月の組合大会において、運行管理者の組合役員就任を批判したのは、辻井であって、申請人ではない。運行管理者は職制ではなく、従来組合役員は運行管理者の中から立候補し、当選し、組合運営をしていた。

(三) 昭和六三年度(平成元年度ではない。)から組合の申し入れにより春闘の際のタクシー部門の賃上げ交渉において、組合員のうちから代表委員として二名選出し、三役及び執行委員とともに交渉にあたるようになった。この二名の委員は、組合役員と同等の資格で交渉に臨む文字どおりの団体交渉委員であって、役員の監視役ではないはずである。また、昭和六三年度の団交席上の「会社側団体交渉要員には翌日代休が与えられているのに、組合側要員に与えられないのはおかしい。」との申請人の発言に対し、「会社側要員にも代休や補償はない。そんなものが欲しければ組合に補償してもらったらどうか。」との回答をした程度でその場は終わった。

なお、申請人が交渉委員として団交に出席したのは、昭和六三年四月一四日と一八日の二回であったが、その段階では交渉が妥結に至っておらず、二〇日に開催された団交に申請人が出席していないので、会社側からその理由を尋ねたのに対し、組合側の返事は、「申請人が金にならんようなことはやれんと言うので、組合活動はボランティア的であるから組合員に奉仕するつもりでないとできないと言って交渉委員を変更した。」とのことであった。

(四) 被申請人が申請人をタクシー運転者として採用面接した際、申請人が「前の会社から理由を言わずに解雇されたが、組合委員長をやっていたことが理由と思う。後日問題になると困るので、この際明らかにした上で、今後一切そのようなことはしないので、誓約書を書こう。」と言ったので、江川総務部長が「そのようなことを書いてもらっても何の役にも立たない。君がそう言うのであれば男の約束として聞いておこう。」と言ったことがあった。そのような事情があったことから、江川部長は、申請人が副委員長に立候補したと聞いたとき、申請人に対し、「わしとの約束はどうなっているか。」と言ったことはあるが、特に圧力をかけたことはないし、申請人の主張する時期にそのような発言をしたことはない。

(五) 公休出勤とは、被申請人のタクシー運転者について、本来の公休日や非番日に運転者の希望により出勤を認めているもので、被申請人としては「個々の運転者に対しては一か月に原則として二乗務以下に限り認めるが、それ以上は認めない」との方針を定めているだけで、その運用は全て労働組合の自主運営に委ねている。組合は、この原則に従って、運転者が公平平等に公休出勤することができるよう運転者集会を開催し、その方法などを議決し、被申請人がその決定内容の報告を受けている。その報告によると、その運営内容は、

(1) 一か月(当月二一日から翌月二〇日)分の特勤申込表を作成し、出勤点呼を行う場所に掲示し、各運転者が公休出勤を希望する日の申込者名欄に予め署名又は押印する(同欄に余裕のない場合は欄外にするか、他の隣接日の欄にして、希望日を矢印で示す方法がとられている。)。

(2) 運行管理者は、申込表の各希望日に空き車両があるとき、その台数に応じ、署名又は押印の順に従い割り当てる。

(3) 公休者と非番者とでは公休者を優先する。

(4) 当該月につき、一回目の者と二回目の者があれば、その希望日については一回目の者を優先する。

とのことであり、この運営方針により被申請人の昭和町所在タクシー車庫において、タクシー係長、運行管理者、無線係及び個々の運転者などによって日常の公休出勤は完全に自主運営されており、具体的にはその管理は無線係がし、運行管理者がこれを黙認する現状にあり、係長は実質的には関与せず、もちろん被申請人は全く関与しておらず(係長以外はすべて組合員である。)、その意思が入り込む余地はない。

本件につき、申請人がさせてもらえなかったと主張する平成元年八月及び九月については、申請人は公休出勤を希望する旨の署名も押印もしていない。このことは、申請人も自認していたことである。

(六) 組合三役の選挙において、対立候補が立ったことは六年前に一度あったし、執行委員については何度もあった。

(七) 他の運転者らが申請人を解雇するよう被申請人に申入れをしたことがある。これに対し、被申請人は、申請人に無線通話問題について、他の関係者同様てん末書の提出を求め、他の関係者がこれに応じたのに、申請人のみがこれに応じず、組合から申請人についてはてん末書に代えて報告書の提出に止めてほしいとの申入れがなされ、組合が責任をもってこれを書かせるとのことであったから、懲罰委員会の席上、組合の意思に従う旨の書状を申請人からとりつけて欲しいとの意見も出された。しかし、申請人がいずれも拒否し、かえって組合に対し地位保全の申立てをされたい旨の要請をしたので、組合大会が開かれた結果、組合は申請人を支援しない旨の決議をしたとのことである。さらに、申請人の同僚である多数の運転者から、自分らの業務を妨害するような者とは一緒に仕事をすることができないとの苦情が相次いだ。

なお、申請人には、昭和六二年四月一八日タクシー乗務中運賃の収受をめぐって乗客との間でトラブルが発生し、大阪陸運支局に申告された事件があったが、陸運支局には被申請人から報告書を提出して処理したことがある。これは、被申請人が申請人を故なく嫌悪するような事情はなかったことの証左である。

(八) 以上の経過から明らかなとおり、被申請人は、申請人の立場や意見を嫌悪したこともなければ、これを理由に不利益的取扱いなどをしたことはない。

2 懲戒権の濫用の主張に対して

(一) 他のタクシー運転者の中でも、昼食について符牒によりごく手短に無線で合図することがあるが、申請人以外に無線を業務外に使用している者などいない。まして他の運転者の業務を妨害したり、乗客に不愉快な思いをさせる無線通話をする者は他のタクシー会社にも皆無である。無線係が申請人に対し、申請人の平成元年一一月一〇日の無線私用につき、会社に帰って直接言うか、電話を使用するように言ったところ、申請人は、「皆に聞かせるように無線を使用している。」と強弁する有様であった。

申請人は、タクシー乗務中、無線による配車指示に対し、長距離客については「おれが(現場に)近かった。」、近距離客については聞えない風を装い、「聞えなかった。」などと勝手気ままなことを言うのが目立つ勤務態度であり、タクシー運転者としては不適格であった。

(二) 被申請人の従業員が他のバス会社従業員と喧嘩した例は、相手方が一方的に悪かったので、処分の対象とならず、平成元年五月発生の人身事故については、被申請人がその事実を知ったのが発生後数か月経過した後であったため、その後開かれた事故査問委員会における組合側委員の抗議により、昭和六三年六月二一日から平成元年九月二一日までに発生した事故については不問とされることになった。ちなみに、申請人の平成元年七月三一日の物損事故も同期間中のものとして不問に付された。被申請人会社の従業員の息子が、バスの運転練習をしたことについては、大型二種免許は客を乗せて営業運転するときのみ必要であり、その余の場合は大型一種免許を有するをもって足りる。問題のバス運転をした者は、大型一種免許を有し、かつ、被申請人社長の許可を得て練習運転したものであり、何ら非とするところはない。七日間の出勤停止処分にしたのは、その事情を知らない従業員が、その練習運転者の父である従業員に右運転を注意したのに対し、不適切な言葉で対応したからであって、これに対し、てん末書を提出したのに、右処分をしたのは、むしろ厳しい処置であったといえなくもない。

以上のとおりであるから、本件配転の場合と比すべくもない。

3 申請人の同意の欠如の主張に対して

本件配転は、前記のとおり、高度の必要性に基づいたものであり、申請人の同意を必要としない。

4 権利の濫用の主張に対して

申請人が本件配転により操車係を命ぜられた直後から、けがを理由として長期欠勤をしていたが、その間の平成二年一月二〇日ころから出勤するということになったので、被申請人は、ガードマンの雇用を中止したが、申請人が更に欠勤を続けたので再度ガードマンを雇い入れた。申請人が操車係として勤務について当初は仕事に慣れていないので、古参従業員に指導に委ねていたため、申請人独自のローテーションを組む必要はなく、また、組むこともできなかった。申請人が仕事に慣れてきたから、ローテーションを組んで勤務体制に組み入れたものであって、このことは新入社員を雇用したときその他の場合も同様であって、申請人の場合に特有の現象ではない。

5 解雇無効の主張に対して

申請人が主張する組合に加入したものとしても、それは、ユニオンショップ協定の効力が申請人に及ばない旨の主張をすることを図って駆け込みで行ったものであり、積極的団結権を実効あらしめるための制度としてショップ制の趣旨からみても、申請人の他組合への加入の事実をもって右ショップ協定の効力が申請人に及ばなくなる理由にはならない。申請人は会社内に併存する一方の組合を脱退して他の組合に加入したのではなく、複数の組合員が組合を脱退して自主的な企業内新組合を結成したものでもなく、既存の企業外組合に単独加入したにすぎない。そして、申請人の組合脱退の理由は、労働運動に対する意見の相違というような組織上のものではなく、単に自らが受けた懲戒処分に対して支援してくれなかったという純粋に個人的なものである。

金剛自動車労働組合は、依然として被申請人に対する関係では統一的基盤を有する単一組合であり、右ショップ協定は職制を除く従業員に対しては効力を有する。

五 被申請人の反論に対する申請人の認否

被申請人の主張はいずれも争う。

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